電脳遊戯 第22話


ゼロレクイエムの計画を変更した最大の理由、いや決定的な切っ掛けとなったのは、シュナイゼルだった。
ペンドラゴンにフレイヤを打ち込みたかったシュナイゼルだったが、ルルーシュはあの一件以来体調が思わしくないと、ペンドラゴンの外に出なくなってしまった。正しくはスザク達に拘束され身動きが取れなくなっていたのだが、ルルーシュを完全な悪に仕立て、正義は自分たちにあると示したいシュナイゼルにとっては計算外の事だった。
ルルーシュの回復を暫くの間は待っていたが、時間が長引けば不利になると判断し、ペンドラゴンを諦め、リミッターが外されたフレイヤはエリア1に落ちた。
エリア11に二発目を打つことも考えたが、それだと三発目もエリア11だと思われてしまうため他の国を選んだのだ。
フレイアによる消失は、ペンドラゴン以上にインパクトのある場所はないし、これではギアスで操られた者を一掃する目的も果たせないが、それはまた機会をみればいい。
今大事なのはルルーシュを動揺させること。正常な判断ができないよう揺さぶり、その状態で戦う場面を作る事だった。
凶悪な女神の光がエリア1の首都を消し去り、巨大なクレーターを作り出した。
その直後に入ったロイヤルプライベート。
ルルーシュはC.C.とスザクと共にその通信に出た。
画面の向こうは予想通りシュナイゼルで、余裕の笑みを浮かべながら「皇帝は彼女だ」と、示すと、そこには死んだと思われていたナナリーが厳しい表情で座っていた。

『お兄さま、私は貴方の敵です』

その言葉に反応したのはルルーシュではなく、傍にいたスザクだった。

「ということは、僕の敵でもあるわけだねナナリー。いや、僕だけじゃない、ブリタニアの国民全員の敵だ」
『スザクさん・・・なんて酷い。お兄様はスザクさんまで操っているのですね・・・ギアスという卑劣な力で』

悲しげにナナリーは眉を寄せた。

「ナナリー、君がそこまで簡単に人に騙される子だとは思わなかったよ。・・・確かに僕にはルルーシュのギアスがかかっている。それは認めるよ」

やっぱり。と、ナナリーは悲痛な表情となった。

「僕にかかっているルルーシュのギアスは”生きろ”だよ。ルルーシュは自分の命も危険にさらされた状態でも、僕の命を惜しんでくれた。そして僕に”生きろ”と願ったんだ。だから僕は最強と呼ばれたナイトオブワンにも勝てた。”生きる”ために、自分の限界以上の力を引き出したんだ」

スザクの言葉に、ナナリーは、え?と、驚きの声を上げた。

「多分シュナイゼル殿下は僕が話した情報や、推測でギアスがどんな力かを判断し、それを元に君に伝えたと思うけど、ルルーシュの力は万能じゃない。幾つもの条件もあるし、防ぐ手段もある。そして、かけられたギアスを消し去る方法もある」
『そんな方法が!?』
『騙されてはいけないよナナリー。枢木卿はルルーシュに操られているから、ナナリーを言いくるめるために、こんな話をしているんだよ』

シュナイゼルは、これがルルーシュの力なんだよと説明すると、ナナリーははっとなり、再び厳しい顔となった。ルルーシュを守るために、嘘をついている。「やはりギアスは卑劣で卑怯な力です」とナナリーは自分に言い聞かせるように呟いた

『そうやって、私を騙そうとしているのですね』
「・・・君は、幼なじみで君の護衛もしていた僕よりも、長年たった一人で君を守り続けていたルルーシュよりも、シュナイゼルを選ぶんだね」
『スザクさんもお兄様も嘘を吐いているからです。なにより、ギアスという力はあってはならないのです』

その言葉に反応したのは別の者だった。

「どうしてだ?ナナリー」
『え?その声はC.C.さん?』

なぜそこに!?
ナナリーは驚きの声を上げ、シュナイゼルは眉をひそめた。

「ああ、久しぶりだな、ナナリー。それで、どうしてギアスはあってはならないんだ?」
『卑怯で卑劣な力だからです』
「お前は天使に向かって、神から授けられた力を卑怯で卑劣とそういうのだな。愚かな娘だよお前は」
『天使?なんて愚かな』
「愚かはお前だ。改めて名乗ろうか? 私はC.C.。お前が生まれるより以前、シュナイゼルが生まれるより前からブリタニアの皇室に守られていた天使の一人だ」

神のもとへ行く権利。
神であるCの世界と更新する権利。
不老不死のコードユーザーは、神が望んだから存在するもの。
それらを考えれば、コードユーザーは神の使い、天使といえるだろう。
ただ、ブリタニアの皇室に長年守られていたのはV.V.で、C.C.が皇室に守られたのはシュナイゼルが産まれる少し前だから最近だ。でも嘘は言っていない。

『な・・・そんな作り話で私が騙されるとでも!?』
「ギアスとは、新たな神の使いに与えられる力、ギアスは別名王の力という。その力に飲み込まれることなく成長させたものは、新たな神使いとなる資格が与えられる。資格を得ることが出来れば、その者は永遠の命を得る。ルルーシュはその試練を受けているに過ぎない」
『世迷い言を!』
「私は不老不死。ルルーシュも試練を乗り越えれば不老不死となる。これは真実だよ」
『そのような者、存在しません!死なない人間など聞いたことありません!』
「・・・だそうだ、コーネリア。ああ、シュナイゼルも知っているんじゃないか?不老不死の存在を。・・・わからないか、ナナリー。私はシャルルとマリアンヌとは旧知の仲だしクロヴィスは私を捕らえ、不老不死の研究をしていた。ルルーシュが救い出してくれたから、こうして無事にここにいるんだよ」

その程度の情報、手に入れているよな?
C.C.は魔女の笑みを画面に向けた。

『え?』

ナナリーは左右に立つ兄と姉をうががうが、二人は口を閉ざしたままだった。
それは肯定を示している。

『そんな・・・まさか・・・』
『不老不死は存在するのかもしれない。だが、自らを神の使いである天使などと・・・これは神を侮辱する行為だね』
「愚かだなシュナイゼル。神の座を守る私の力を欲したからこそ、シャルルはルルーシュから母と妹に関する記憶を、ブリタニアの皇子だった記憶さえ奪い、新たな家族として弟を与え、アッシュフォード学園という名の牢獄に捉えていた。私をおびき寄せるために。勿論知っているだろう?お前の弟が餌と呼ばれ、どんな扱いを受けていたかを」
『・・・な・・・何の話ですか?お兄様が私のことを、お母様のことを忘れた・・・?』

ナナリーのつぶやきに答えたのは、ルルーシュでもC.C.でも無かった。

「そうなのよナナちゃん。先帝はルルちゃんから貴方の記憶を、思い出を奪ってたの。ちなみに、私やリヴァル、シャーリーからも奪っていたのよ?」
『ミレイさん!?』

聞き間違えるわけがない。
だが、底にいるはずもない。
彼らもギアスで・・・なんて酷いとナナリーは呟いた。

「ねえナナちゃん、知ってる?ギアスって、一つじゃないのよ?ルルちゃん一人だけが持っている力じゃないの。数百人が持ってるそうよ?」
『え!?』
「そうね、ナナちゃんの身近で言うならシャルル皇帝、マリアンヌ皇妃・・・ナイトオブワンもだっけ?」
「ああ、ビスマルクも持っていた。ラウンズではあいつだけだが、シャルルの周りには他にもいたし、何よりルルーシュの弟役の少年もギアスユーザーだった」
『そ、そんな!人を操るギアスをそんなに多くの人が持っていたはずありません』
「そうだな、なかなか賢いじゃないかナナリー。全員同じ能力ではない。時を止める力、未来を見る力、心を読む力、記憶を書き換える力など、発現する力は人それぞれ違う」
「あと、人を操る能力もあるんでしょ?」

ミレイは皇族の会話というより、友人との会話というノリで話していた。

「ああ。相手の意志を無視し操る能力は発現しやすい。ルルーシュの能力はレアなんだ。だから制限も多く乱用する事ができない」
『乱用が、出来ない?』
「確かに条件聞いたらむやみに使えないよな。使うなら、奴隷になれ!とか、俺に従え!とか、俺ならそういう命令するよなぁ」
『リヴァルさん!?』
「久しぶり、ナナリーちゃん。それにしても、ルルーシュが俺達に酷い命令をしてるって考えちゃう辺り、ルルーシュのこと解ってないよな。愛しているって言ってたけど、単に自分の世話をしてくれる都合のいい身内だからってことだよな?」
『そんなことはありません!私はお兄様を愛していました!』
「今はそっちのシュナイゼル殿下とコーネリア皇女殿下がナナリーちゃんの世話をしてくれるから、もうルルーシュはいらないんだろ?だから信じることもやめたんだろ?ルルーシュなんて、ナナリーちゃんが死んだと思って、自殺まで考えてて、俺達が必死に止めてたのに、ナナリーちゃんはその間も皇女様として幸せに過ごしてたんだもんなぁ」
『お兄様が自殺を!?』

ナナリーはその言葉に息を呑んだ。
ゼロレクイエム。
それは手のこんだルルーシュの自殺にほかならない。
ルルーシュはナナリーを失ったことで、それだけ追い詰められていたのだ。

「なんで驚くのかしら?ルルちゃんにとってナナちゃんは自分の命より大事だって断言するほど溺愛していたのよ?そのナナちゃんが死んじゃったら、ルルちゃんは生きていられないわよ?・・・そんなことにも気付かなかったの?」

呆れたような口調でミレイは言った。

「待って、これはルルーシュの事以前の問題だよ。ナナリー、君はエリア11の総督だよね?トウキョウ租界が壊滅的ダメージを受けたのに、どうして国のトップが姿消してるんだ!どれだけあの時大変だったと思ってる!?国を治めるには責任が伴うのに、君は責任を取ること無く今まで何をしていたんだ!」

スザクが真剣な声音でナナリーを糾弾した。

『それは、シュナイゼルお兄様が』
「人のせいにするなナナリー。エリア11のトップはその腹黒兄ではなくお前だ。まあ、妹の死にショックを受け、国のトップでありながら失踪したコーネリアがそこにいる以上、無責任なのは血故か?ルルーシュの兄弟だとは信じられないよ」
「そうだね。ルルーシュは全ての責任を取るため、皇帝となり、ブリタニアの罪であるシャルル皇帝が行った植民地政策の責任も取り、平和で戦争のない世界を作り出そうと連日寝る間も惜しんで政務をこなしているよ。勿論君達が放置したエリア11の復興もルルーシュが行っているし、エリア1に関しても同じだ。大体、エリア1の人々を億単位で殺害しておいて、どうしてそんなに偉そうに話せるんだ!?」

心の底から信じられないと言うように、スザクは捲し立てた。
ナナリーはエリア11の最高責任者だった。
それを投げ出し姿を消しておいて、今度は皇帝だって?
しかも億単位の人間を殺害しておいて、どうして顔色も買えず平然とこんな会話ができるんだ。自分はトウキョウ租界に打ち込んだフレイヤで、どれほど悩み苦しんだか!

『そうやって嘘をついて、私を惑わせるつもりなのですね!』
「嘘じゃないよ。自国の民に大量殺戮兵器を投下しておいて、どれだけの被害が出るか想像もしていなかったのか?」

スザクは呆れたように言った。

『国民は全員避難していたはずです!』
「「「「は!?」」」」

その返答にルルーシュを除く全員が驚きの声を上げた。

『シュナイゼル兄様が、全員避難するよう手配しています』

自信満々に答えたナナリーに、皆空いた口が塞がらなかった。
真っ先に立ち直ったのはC.C.。

「いやいやちょっと待てナナリー。どうして宰相としての政務を投げ出して姿を消したその男が、エリア1の国民を避難させられるんだ?それが出来るのは皇帝であるルルーシュとエリア1総督だけだし、予告もなく撃ち込まれたんだぞ!?大体だ、大地をクレーター状にえぐり、その場にあったものを全て消滅させるフレイヤで大都市ごと消されているんだ。そこに住んでいた者達の家も職場も全てが消え去った。もし仮に全員逃げ出していたとして、その後どうするつもりだったんだ?億の民をどう生活させる気だったんだお前は!?」
『え?そ・・・そんな話で私を惑わせるつもりですか?』
「・・・君は、ルルーシュに守られすぎていたんだね。だから、目だけではなく心まで盲目になってしまった」

スザクは呆れを込めた声でそう言った。
あれだけの人数を100%避難することなど不可能だし、病人など、身動きの取れない人もいる。仮に本当に全国民を一時避難させたとして、帰る場所も財産も全て、それこそ根こそぎ消え去ったのだから、そのままでは生きていくことは不可能。そんなわかりきった未来すらナナリーは思い描けないのだ。

「もういいよ。君が真実に目を背け、自分を甘やかしてくれる相手を盲信し、信じなければならない人を裏切り、愚かな行為を続けるということがわかった。・・・で?君が皇帝?目も見えず、こんな簡単な話さえ理解できない君が国を治める?エリア11を投げ出した君が国のトップに?ふざけるな!国民はそんなこと望んでいない!」
『それは、お兄様が国民を操り、自分の忠実な奴隷にしているからです!本当はお兄様が賢帝などと呼ばれること自体がおかしいことなのです!』

その言葉に、C.C.は深々と嘆息した。

「馬鹿な子だ。お前の兄は恐ろしいほど優しい男だ。自分が幸せになるということなど微塵も考えず、愛するお前の幸せだけを願い、それこそ身を粉にしてお前を介護し続けていた。10歳の子供がたった一人で目と足に障害を抱えた8歳のお前を守り、世話をしていたことさえもう忘れたのだろうな。それがどれほど大変なことで、ルルーシュがどれほど辛い思いをし、それでもお前に笑って欲しいと無理を続けていたかなど考えたこともないだろう。普通であれば、お前のことなど投げ出してしまうほどの苦しみだったんだよ」
『そんなことありません!』
「本当に、馬鹿な子だよお前は」

C.C.は救いようがないと嘆息した。

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